ドローンは農薬などの散布だけでなく、作物の生育状況を管理する目的にも使えます。この分野は精密農業と呼ばれ、2010年代後半になって急速に研究やサービスの提供が進んでいる分野です。
精密農業を導入することで、農場を効率的に管理しながら、品質の向上や収量の増加など効果的な管理も可能となります。本記事ではドローンを活用した精密農業について、そのしくみとメリットを解説していきます。以下のような課題をお持ちの方は、ぜひ参考にしてください。
- 今よりも楽をしたい
- もっとよい品質の作物をつくりたい
- 収量を増やしたい
- 農業経営を安定させたい
ドローンを精密農業に活用するしくみ
精密農業はドローンによる画像撮影とITによる画像解析を用いて、作物の生育状況を可視化するしくみです。これらはどのように活用されているのか、その仕組みを解説します。
専用のドローンを使う
精密農業に用いるドローンは、以下の性能が求められます。
- 農作物の葉の状態を1枚ずつチェックしたり、雑草をチェックするため、「空間分解能が10cm未満」のものが必要
- 可視光線だけでなく、近赤外線も観測できる「マルチスペクトルカメラ」の搭載が必須
空間分解能は空間解像度とも呼ばれます。空間分解能が数十cm程度になると、農作物の株1つ1つを見分けることはできても、葉など個別の状態をチェックすることはできません。これらの状態をチェックするには、空間分解能が数cm以下のカメラを選ぶ必要があります。
また近赤外線に関する観測データは、作物の生育状況を示す代表的な指数である、NDVI(正規化植生指数)を求める際に必要です。ドローンにはマルチスペクトルカメラよりも高機能な「ハイパースペクトルカメラ」を搭載し、より多くの情報を短時間で撮影できる製品もあります。
いずれにしても、農薬散布用のドローンとは求められる性能が異なります。このため、精密農業には専用のドローンを使う必要があります。ドローン本体は、数十万円から調達可能です。
集めた画像データを分析し、生育状況を把握する
ドローンで集めた画像データは、画像解析用のサービスを利用して分析し、作物の生育状況を把握する必要があります。画像解析用のサービスには、以下のものがあります。
- Pix4Dfields(Pix4D S.A.提供、精密農業用に最適化されたサービス)
- いろは(スカイマティクス社提供)
- Agri Field Manager(オプティム社提供)
必要に応じて、追肥などを行う
ドローンによって集められた画像を分析した結果、以下のような結果が確認できる場合があります。
- 病害虫の被害を受けている
- 予定よりも生育が遅い、または早い
状況に応じて、農薬の散布や追肥などを施す必要があります。場合によっては、農薬散布用のドローンを使うこともあるでしょう。また販売先との契約によっては、収穫時期や収穫予定量が変わった場合に連絡が必要となる場合もあります。
精密農業にドローンを使うメリット
精密農業にドローンを使うことには、いくつものメリットがあります。ここでは主なメリットを4点取り上げ、解説していきます。
経験の浅い農家でも、高い生産性を上げる助けとなる
ドローンで撮影した画像を解析し、出力したデータを適切に解釈することで、早期に適切な処置を行うことができます。このため経験の浅い農家でも品質や収量がアップでき、高い生産性の実現につなげることができます。また専門業者のサービスを利用している場合は、データに基づいたコンサルティングを受けられますから安心です。
近年は天候など、外部環境も大きく変化していますから、長年の勘や経験が生かせない場面も発生します。そのような場合でも精密農業を活用することで、最善の選択を行うことが可能となり、被害を最小限に抑えることが可能です。
収穫時期が予測できる
精密農業を採用するメリットには、事前に収穫時期が予測できる点もあげられます。このことにより、収穫時期にあわせて計画的な人員の確保が可能となります。加えて収穫予定時期の報告を求められている場合は、あらかじめ収穫時期を知らせることにより、取引先からの信頼を得ることができます。
農業従事者自身の負担が軽減できる
精密農業のメリットには、農業従事者自身の負担が軽減できる点も見逃せません。炎天下のなか、作物を1株ずつチェックする作業は大変な苦労が伴います。腰を痛めたり、脱水症状を起こさないように備えをしなければなりません。
一方でドローンを使えば、限られた時間のなかで生育状況をチェックできます。これにより、腰を痛めたり長時間炎天下にさらされたりする苦労から解放されます。
農地面積が広くなくても、活用できる
ドローンによる精密農業は、農地面積が広くなくても活用できる点もメリットの1つです。2017年に日本リモートセンシング学会誌Vol.37で掲載された研究によると、ドローンの観測範囲は数ヘクタールから数十ヘクタールとされています。
また農林水産省が公表した「平成30年 農業構造動態調査」によると、1ha以上の農地を経営する農家のうち、耕地面積が5ha未満の農家の割合は81.2%となっています。このように経営規模が大きくない農家に対しても、ドローンを活用した精密農業は有効な方法の1つです。
ドローンを活用する際のポイント
ここまで解説した通り、ドローンによる精密農業は農家に対して多くのメリットをもたらします。一方でこのメリットを最大限に活用するためには、いくつかのポイントがあります。本記事の最後では、主なポイントを3点取り上げ、解説していきます。
ドローンや画像解析サービスの準備が必要
本記事の前半で触れた通り、精密農業を行うためにはマルチスペクトルカメラまたはハイパースペクトルカメラを搭載した、精密農業用のドローンが必須です。
ドローンは自社で用意する方法と、専門業者が提供するサービスを活用する方法があります。どちらの方法を使う場合でも、ある程度の負担は必要です。
- 自社で用意する場合はドローンの購入代金や画像解析サービスの利用料金のほか、日常のメンテナンスが必要。また、固定資産税が増える場合がある
- 専門業者が提供するサービスを利用する場合は、サービス利用料金の支払いが必要(価格は、契約内容により異なる)
撮影した画像を解析するためには、専門的な知識が求められます。このためドローンの操縦や画像解析を含めた、専門業者のコンサルティングサービスを利用することが現実的な選択となるでしょう。
国土交通省などへの許可が必要となる場合が多い
ドローンを飛行させる場合には、国土交通省などの許可が必要となる場合も多いです。例として、以下に該当するケースがあげられます。
- 農地が空港から24km以内の場合(小規模の空港の場合は、6km以内の場合もある)
- 農地が人口集中地区にある場合(大都市の周辺や、都道府県庁所在地など)
- モニター監視など、直接ドローンを見ずに操縦する場合
但し専門業者のサービスを利用している場合は、これらの手続きは業者が行います。申請にあたって情報提供を求められる場合がありますから、円滑に手続きを進められるように協力しましょう。
なるべく楽をすることを考える
この記事をお読みの方、またはまわりの方のなかには、「農業は苦労して汗を流すもの」とお考えの方もいるかもしれません。しかし苦労には体を使うだけでなく、頭を使う方法もあります。企業のなかには、「脳で汗をかく」という表現を用いるところもあるほどです。このためドローンを活用する際には頭を使い、なるべく楽をできるように創意工夫をこらすことが重要です。
楽をするように努めることで、以下のようなメリットが見込めます。
- 少ない人員でも広い農地を管理でき、人件費を抑えられる
- 働きやすい職場になる
- 従業員を雇用している場合は、労働条件が良くなることにより離職率の低下と、優秀な人材の確保がしやすくなる
まとめ
いかがでしたでしょうか?ドローンによる精密農業を採用することで農家の負担を減らすことはもちろん、良質な農産物の生産や収量の増加にも役立つメリットがあります。また企業経営の場合は、優秀な従業員を確保することにもつながります。
一方で、精密農業の活用には費用がかかります。自前で用意することも1つの選択肢ですが、専門業者の提供するサービスを活用し、農薬散布やコンサルティングなどとセットで依頼することもご検討ください。
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