建設業会計について、今回は管理会計システムに関して整理していきます。
建設業管理会計業務で必要なシステム要件
前回、建設業管理会計のサイクルについて整理しました。大きく計画段階、実行段階、比較分析段階と3つのフェーズに分けて説明しました。
【管理会計サイクル】
では、これらの業務を支える管理会計システムにはどのような要件が必要になってくるでしょうか?
1. 計画段階
会計年度も終盤に差し掛かると、次年度の事業計画を立て始めます。管理会計の計画段階は次年度計画作成からスタートします。計画段階では、各レイヤーでの計画立案と他レイヤーとの調整などが必要になり、何度も計画を立案しては、修正の繰り返しになります。また、本社組織や各間接部門の計画値を各事業部門にも配賦する必要があるため、配賦シミュレーション機能も必要になっています。また新組織を想定しての計画策定も必要になる場合があり、組織もある程度自由に変更ができる必要があります。
求められるシステム要件
- 組織、値の追加、変更が容易に可能
- 組織を超えた共有が可能
- 計画の変更履歴を保持可能
- 配賦基準を変更しての計画値シミュレーションが可能
2. 実行段階
実行段階では、事業が進むにつれて確定する財務データ(売上、コストなど)を正確に計算、収集する必要があります。基幹系システムや各種業務アプリケーションがこれらのデータを管理する役割を果たしています。また実行段階では、特に工事別原価計算を正確に計算する必要があり、発生した事実を正確に数値としてデータ化することが重要です。また、正確に数値化したデータは、次の比較分析段階に向けて自由に集計できることが求められます。
求められるシステム要件
- 売上、コストなどの財務データを工事別、部門別、セグメント別に正確にデータ化が可能
- 実績データを収集し、上位レイヤーでの集計が可能
3. 比較分析段階
比較分析段階では、予実乖離分析のために分析したい軸で計画値、実績値を集計する必要があります。また予実対比や前年対比など比較したい要件に従って期間を指定して自由にデータの取得ができ、分析できる必要があります。意思決定者が参加する会議資料で報告資料をまとめる必要があるため、チャート、グラフなど視覚に訴える機能も必要になってきます。さらに大量データを集計処理するため、集計の処理速度も重要です。管理会計システムやBIツールが利用されなくなる理由の一つとして処理の遅さがあります。
求められるシステム要件
- 計画値、実績値の分析軸に応じた柔軟な変更
- 比較結果が視覚的に表現可能
管理会計で使用されているツールのメリットとデメリット
上記の要件を踏まえて管理会計業務で利用されているシステム(ツール)とそのメリットとデメリットを紹介します。
1. Excel、AccessなどのOfficeソフト
管理会計業務に携わる多くの方が利用されています。これまで関わってきたお客様でも、基幹系システムから加工されていないローデータを取り出し、Accessに取込み、自分が分析したい単位で集計し、その結果をExcelに張り付けて経営会議用資料を作成しているという方が多かったです。
メリット
- Officeソフトに慣れているため操作しやすく、手軽で追加・変更が容易
- 関数、グラフなどの機能を利用して、分析結果の評価が可能
デメリット
- ローカルPCでの処理のため、大量データの処理に向かない
- 履歴をファイル別で残しておく必要があり煩雑
- 個人でメンテナンスしているため、他の人との共有が困難
2. BIツール
大量データの集計、多次元分析、視覚的な表現を得意とするツールです。最近は、直感的な操作が可能で複数のシステムのデータを簡単に取り込めるBIツールもでてきており、導入しやすくなっています。国内では、Dr.Sum、MortionBoard、海外では、Yellowfin、QlikView、Tableau、PowerBIなどがあります。
メリット
- 大量データの処理が可能で、分析結果を視覚的に表現可能
- 分析軸を直感的な操作で自由に変更し、即座に集計可能
デメリット
- 操作方法を習得するトレーニングが必要
- システム構築および初期設定などが必要
3. 管理会計用アプリケーション
管理会計業務を遂行するためのアプリケーションで、基本的には計画段階、実績収集、分析までをオールインワンで実施可能なアプリケーションです。ERPパッケージの1つの機能として提供されているケースもあります。Oracle Hyperion PlanningやSaaS型クラウドサービスのAdaptive Suiteなどのサービスがあり、国内の新興ツールとしてfusion_placeが挙げられます。
メリット
- 管理会計業務の計画、集計、分析をオールインワンで提供
- 管理会計業務に特化しているため、配賦シミュレーション機能などが充実している
デメリット
- 管理会計以外の用途で利用できない
- 操作方法を習得するトレーニングが必要
- システム構築および初期設定などが必要
管理会計システム構築のポイント
上記で紹介したツールのいずれを利用するにしても、まずは現在の管理会計業務の課題を抽出し、ボトルネックとなっている作業を洗い出すことが重要になります。課題を明らかにしたうえで、その課題を解決するツールを選択し、構築していくことが必要です。
例えば、分析に必要な分析軸が足りないということが課題であれば、ツール類というよりまずは元データの見直しから始める必要があります。また、それほど複雑な計算が必要ない業務にも関わらず、BIツールや管理会計アプリケーションを導入することでかえって非効率になる場合もあります。
ツールはあくまでツールであるため、各企業の課題に応じて取捨選択し、最適な管理会計システムの構築が必要です。
まとめ
いかがでしたでしょうか?建設業における管理会計システムについて、システム要件とツール類について整理してきました。最近は視覚的に充実した簡易なツールがこれまでよりも低コストで導入が可能になってきています。無料トライアル版で検証することも可能になってきていますので、少しずつ試しながら自社にあったサービスを選択してみてはいかがでしょうか?
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