建設業会計について、今回は管理会計に関して整理していきます。
建設業における管理会計の目的
企業会計は、財務報告のための財務会計と経営管理のための管理会計の大きく2つに分けられます。財務会計が会計基準にもとづいて正確な報告を求められる一方、管理会計については企業運営をマネジメントし、企業価値を向上させることを目的にしている点が違いになります。
今回は建設業の管理会計について考えていきましょう。管理会計には大きく意思決定と業績評価の2つの目的があります。
1. 意思決定
各階層での意思決定の判断材料として、必要な会計情報を提供します。意思決定者の判断が必要なタイミングで必要な情報を提供することが必要です。例えば、経営層での意思決定であれば個別工事ではなく、事業部ごとあるいは会社全体の予実対比データと着地予測のデータにより、今後の社内リソースの配分を判断していきます。
2. 業績評価
各組織の業績を評価するために、必要な会計情報を提供します。各組織の方向性と達成へのモチベーションを高めるために、評価基準(インセンティブなど)を設けて各組織が進むべき方向性を示します。例えば、グローバル展開に力を入れることを経営目標とした場合、海外案件の売上高が大きければ評価を高くし、給与あるいは賞与に反映させるといったことが挙げられます。
管理会計の手順
管理会計については、財務会計と違い決められた基準が存在しないため、各企業で工夫しながらその手順を確立しています。1つの例として下記に建設業における管理会計のサイクルを挙げています。意思決定レイヤーを経営層と各組織と工事長の3つに分類し、それぞれで計画段階、実行段階、比較分析段階で分けています。
【管理会計サイクル】
1. 計画段階
管理会計において、計画策定は非常に重要になります。目標や計画がなければ、実行段階で出てきた数値の良し悪しを判断できないためです。
経営層では、会社として達成したい目標とそれを達成するための計画を立案します。経営目標(5年~10年)を策定し、それを達成するための経営戦略、3ヵ年の中期経営計画を立案し、中長期的な会社の方向性を決めます。また、中期経営計画をもとに1年分の年間利益計画を立案します。年間利益計画は、各組織や部門での達成してほしい具体的な数値的な目標も含めて経営層で立案する場合もあります。
組織長は、経営層が立てた利益計画を達成するため、組織の利益計画を策定します。各部門の部課長クラスとともに、年間目標達成のための具体的な実行計画も含めて数値に落としていきます。目標を作成する際に実務的には、組織が担当する得意先ごとに年間利益目標を立てて、積上げにより算出していきます。会社との利益目標との整合性をとるため、経営層と調整しながら組織としての計画をコミットします。
工事長は、得意先から工事受注後に実行予算を策定し、1工事の利益計画を策定します。
計画段階で注意したいのは、実績としてデータ収集できる粒度で計画値を策定することです。そうしないと、予実比較ができなくなってしまい、実績数値の良し悪しを判断できません。
2. 実行段階
実行段階では、工事現場および組織の活動を正確にデータ化し、モニタリングしていきます。ここでは、各階層で立案した計画データと期間と粒度を合わせて算出・集計していくことが重要になります。また、以前も述べた部門別配賦計算や工事間接費の配賦計算のルールを策定し、できるだけ正確な原価計算が必要です。
3. 比較分析段階
比較分析段階では、計画段階で立案した計画と実行段階で算出・集計した実績値を比較し、差異を分析します。ここでは、数値的な差異の原因がどこに起因しているかまで掘り下げることが重要になります。管理会計の目的である、意思決定と業績評価はこの段階で実施されます。
意思決定については、計画との乖離がなぜ起きているのか、それにより今後どのような対策をとっていくべきなのかを、組織レベル、工事現場レベルそれぞれで判断していきます。そのためのよりどころが計画値と実績値になります。また、業績評価については、当初計画した目標を達成できたかできなかったか、計画値と実績値を比較することで評価が可能になります。
比較分析は、各企業の方針にもよりますが、最低限月次で実施していくことをお勧めします。計画と実績との乖離の原因をできるだけ素早く正確に把握し、各層の行動につなげていくことが企業活動において非常に重要になってくるためです。
まとめ
いかがでしたでしょうか?建設業における管理会計について、その管理の流れと注意点についてまとめてきました。ポイントは、根拠を持った計画を立てて、計画と比較可能な期間・粒度で実績を算出・集計し、乖離分析によりアクションにつなげていくことになります。これらをできるだけ素早く正確に実施するためにもIT基盤の構築が重要になります。
次回予告
次回は、建設業における管理会計のシステム構築について発信していきます。
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