デジタルトランスフォーメーション(以下DX)の活用により、新たなサービスが展開されるようになりました。皆さまのなかには、便利な時代になったと感じる方も多いでしょう。その一方でDXを有効に活用するためには、これまでとは異なる仕事の進め方が求められます。
とりわけ、ある程度の社歴を持つ企業では、現在の仕事の進め方から変える必要もあります。従って、自分たちは何も変わらずにメリットだけ受けるわけにはいきません。
今回はDXを活用することでどのように仕事に影響するか、またどのように仕事の進め方を変える必要があるかという観点で解説します。組織改革を行いたい方や、逆に新しい技術が導入されることで不安な方に、お読み頂きたい内容です。
DXは仕事の進め方にも影響をおよぼす
DXを活用することは、さまざまな面で仕事の進め方に影響を及ぼします。ここでは主な3つのポイントを取り上げ、どのような影響があるか解説していきます。
仕事の負荷を軽減したり、安全を高める効果がある
DXを活用することで、仕事の負荷を軽減させる効果が期待できます。特に定型的な業務を自動化することで、従業員を単純作業から解放したり、AIによるチェックを加えることで間違いを未然に防ぐことが可能です。
またVRなどの技術を用いることで、まるで実際の機器を使っているような臨場感も与えられます。これはシミュレーターとは異なり、まるで現実のように思わせる体験が可能です。このためトレーニングにより高価な機器を壊すリスクを減らしながら、安全性を高めることができます。
離れた場所にいる人どうしでも、業務に必要な情報が入手できる
DXを活用することで、離れた場所にいる人どうしでもコミュニケーションを取ることができます。加えて、業務に必要な情報が入手できる仕組みも実現可能です。一例として、営業担当者や建設現場へのモバイル端末導入やWeb会議システムは、離れた場所でも状況を知ることができるメリットを与えています。
さらに高度に活用した例としては、世界の石油業界上位企業の1つである、ロイヤル・ダッチ・シェル社(以下、シェル社と略)の取り組みがあげられます。シェル社はDXを利用して、航空機への給油を効率化する工夫をしています。燃料の在庫はもちろん、航空機の到着時刻や給油すべき場所なども自動で取得するなど、業務に必要な情報をリアルタイムに可視化しています。このため作業員がスピーディーに対応でき、作業の効率化につながります。
業務プロセスを見直す必要にも迫られる
DXという新たな仕組みを導入することは、業務改革が求められていることを意味します。このため「なるべく現行業務に適合するようにDXを導入する」という姿勢ではいけません。逆にDXの導入を機に、ゼロベースで業務プロセスを見直すことが望ましい対応です。
この際、管理部門などが主導してDXによる改革を呼びかけても、現場からの抵抗にあうケースも多いものです。それは現場社員に関わらず、多くの人は現状維持を望むものだからです。このため業務プロセスの見直しを成功させるためには、経営層が主導して改革を進める必要があります。
DXの活用に合わせて、仕事の進め方も変える必要がある
DXという新たな仕組みを導入することは、仕事の進め方を変える機会でもあります。変化に積極的に対応し、本来あるべき業務プロセスを実現することが重要です。
不要な業務を積極的に洗い出し、極力カットする
DXの導入により、不要な業務が発生する場合も多いです。あわせて、これまで温存されてきた不要な業務を整理する絶好の機会でもあります。例えば以下のような業務は、DXの活用により整理を検討できるものです。
- 間接業務
- 会議(開催時間だけでなく、出席者も厳選する。テレビ会議の採用も考える)
- 出張や現地対応(メール、ビジネスチャットなどを有効活用し、極力人の移動を減らす)なるべく業務をシンプルにした上で、できるだけ利益につながる業務に要員を多く配置することが必要です。
「もっとよい方法がないか?」という疑問を持つ
企業運営に必要な業務であっても、その手法は常に改善する必要があります。この点でDXの活用は、業務を改革するよい機会となるでしょう。以下のような例は代表的といえるものです。
- 自動化を進めて、工場の要員を減らす
- セントラルキッチンからスピーディーに配送する仕組みを整えることで、各店での仕込みを大幅に簡素化し、あわせてけがのリスクも減らす
- フリーアドレス制を導入し、部署を超えた関係者間でもコミュニケーションをしやすくする
このように、常に「もっとよい方法がないか」という疑問を持ち、業務の進め方を改善する努力がDXの有効活用には欠かせません。
「完璧主義」から「よりベターな方法を選ぶ」へ
DXはアジャイル開発が主体となることが示す通り、トライ&エラーを繰り返す過程で品質がアップする特徴があります。このため、最初から完璧な納品物を求める案件には向いていません。言い換えると、DXを導入する場合には「試行錯誤を認める」姿勢が求められます。
もちろんビジネスで使うシステムである以上、完璧を目指すことは必要です。しかしそのステップは、よりベターな方法を選ぶことの繰り返しでなされるべきです。より良い選択を繰り返すことでシステムも成長し、貴社にとって最善のシステムに育て上げることができます。
仕事を属人化しない
DXが求められる時代のビジネスは、スピード化が要求されることも特徴です。たとえば競合他社がDXの活用によりリードタイムの短縮を実現できたならば、他社を上回る効率化を実現できないと競争に勝てません。一方で担当者は外出や有給休暇を取る場合もあり、常に会社にいるとは限りません。
従って、汎用的な業務は誰でもこなせるように業務を標準化する必要があります。各自の持っているノウハウを形式知として、マニュアルなどにまとめることが重要です。
この意味で、仕事を担当制にしている企業は要注意です。仕事の属人化により対応までの日数がかかると、せっかくのビジネスチャンスを他社に取られかねません。従業員も「これは私の仕事」と固執せず、汎用的な業務は他の人に任せ、あなた自身の新たな強みを開拓する時間にあてることが重要です。
利益をできるだけ多くする方法は何か?を考え、実行することが重要
そもそも仕事はそれ自体も目的の1つですが、営利企業においては利益をあげることが重要です。このためには「自分の仕事を守る」という視点ではなく、企業の利益をできるだけ増やす観点でDXを活用することが重要です。
導入しただけでは意味がなく、有効に使われてこそ効果あり
DXは導入しただけでは、コスト増につながってしまいます。以下のいずれかの成果をあげてこそ、導入した意義があるものです。
- 売上を増大し、利益を増やす
- 経費を減らし、利益を増やす
仕事の進め方という観点では無駄な業務を減らしながら、売上を増やすための創意工夫を凝らして利益をアップすることが望ましいものです。従ってDXを有効に活用するためには、現場の協力と努力が不可欠です。
人が担当することが適する業務に、限られた人員を配置する
DXの導入にあわせて、各業務について人が担当すべきかどうかを再検討することも重要です。人口が減少する時代では、すべての業務に対して同じ人員を維持し続けることはできません。このためDXの導入を機に、以下のように人員配置を集約化することが重要です。
- 機械ができることは、なるべく機械に任せる
- 人間による対応が適している業務に、人員を重点的に配置する
上記の施策を取ることで、企業の業績アップだけでなく顧客満足の向上にもつながります。DXの導入は人間と機械の強みを生かすための、よい機会といえるでしょう。
まとめ
DXは単に「新しいシステムが来た」ということにとどまらず、仕事の進め方にも影響を及ぼすものです。このため現状維持にこだわらず、業務に従事する側も変化に対応しなければなりません。
なかには業務プロセスを見直すことにより、業務量が75%削減できた企業もあります。今後の競争に勝ち抜くためにも積極的に仕事の進め方を見直し、利益の向上と企業のイメージアップに貢献する必要があります。
参考:
SAP
航空機の遅延ゼロを目指して ? シェル・エイビエーション社のデジタルトランスフォーメーション:https://www.sapjp.com/blog/archives/20115
設備保守のフィールドエンジニアのデジタル化 ヴェスタスウィンドシステムズの現場強化策:https://www.sapjp.com/blog/archives/20042
日経BP「人・働き方・ビジネスの変革を推進するデジタルトランスフォーメーション戦略」:https://tech.nikkeibp.co.jp/it/atcl/column/16/092700214/092700008/
JR西日本「2019年2月 定例社長会見」:http://www.westjr.co.jp/press/article/2019/02/page_13836.html
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