企業経営では近年、デジタルトランスフォーメーション(以下、DXと略)が注目されています。DXは変化の激しい現代を勝ち抜くために、必要な概念の1つです。しかしDXは経営と密接に結びついていますから、単にシステムを変えたり、ITサービス事業者にお任せといった姿勢ではうまくいきません。
ここでは最初にDXについて解説した後、その目的と必要性、実現するためのポイントについて解説していきます。
デジタルトランスフォーメーション(DX)について
DXについて解説する際には、その意味だけでなく、基盤となる技術や先行事例を知っておくと、理解が深まります。本記事では、まずこれらの点について解説していきます。
DXの示す意味
そもそもDXとは、どのような意味なのでしょうか。情報処理推進機構では、以下のように定義しています。
- デジタルテクノロジー(IoT、AI、DB)を駆使したビジネスの変革
- ビジネスモデルの変化、個人の生活や社会構造まで影響が及ぶ
引用元:情報処理推進機構「デジタルトランスフォーメーションに必要な技術と人材
このようにDXは、単にIT機器やソフトウェアの置き換えにとどまるものではありません。DXはビジネスやサービスそのものを変えるということ、またビジネスやサービスと密接していることが大きな特徴です。
IoTやAI、クラウドなどの技術が用いられる
DXでは、近年話題となっている新技術がよく用いられます。以下の技術は、代表的な例です。
- IoT(モノのインターネット):デジタル機器だけでなく、白物家電や機械などにも通信機能を備え、インターネットを介して情報をやり取りする
- ビッグデータの活用:大量かつ多様な種類のデータを収集・分析した上で、事業運営に役立てる
- AI(人工知能):ビッグデータを自ら学習・分析した上で、ある情報に対する判断を自動的に行う
- クラウド:サーバーなどのIT機器を保有するかわりに、外部企業のITサービスを利用する
またこれらの技術の基盤には、コンピュータの処理速度が高速化したことも見逃せません。大量のデータでも瞬時かつ正確に処理できることは、DXを推進する原動力となりました。
DXの実現例
DXは、すでに幅広い分野で実現されています。たとえばAmazonでのショッピングではその人の購買履歴をもとに、おすすめの商品などを「レコメンド」として表示しています。これにより購買額のアップにつなげ、業績の向上につなげることが可能です。またAmazonはこの成果をもとに、AmazonのAIが使えるサービスを2018年11月28日に発表しました。このサービスは、Amazon Web Serviceの利用者向けとなっています。
AirBnBも代表的な例にあげられます。すでにインターネット予約は広く普及していましたが、これまでの宿泊先はホテルや旅館、民宿など、宿泊を目的とする施設しか選べませんでした。AirBnBは民泊を取り扱うことで宿泊の選択肢を広げるだけでなく、一般家庭でも人を泊めて稼ぐことができるようになった点で、ビジネスモデルを変えました。
技術は手段、目的はビジネスモデルの変革
DXにはさまざまな技術が使われています。しかし企業がDXを取り入れて実行する際には、あくまでもビジネスモデルの変革に使うことが重要です。いくら技術をアピールしても、事業の課題解決に結びつかなければ意味がありません。
どのシステムを使うかよりも、企業が目指す目標を実現することが重要
今やITは企業の経営基盤の1つとして、企業の業績改善や事業の課題解決に役立つことが必要です。従ってDXの導入にあたってはシステムの仕様や機能よりも、どれだけ経営に貢献できたかが求められます。この点でDXは企業経営を改善させる手段といえますから、きちんとしたビジネスモデルも作っておく必要があります。
またDXは目標の実現と外部環境の変化に対応するため、企業自身を変革する手段として使うことも重要です。このためには業務プロセスの改善はもちろん、事業戦略や注力する事業を取捨選択するなどの決断も求められます。
コストカットよりも増収を目指すことが大切
ITの主な導入目的の1つに、機械化によって人員を削減することがあげられます。これは、増収をめざすよりも収益改善の見込が立てやすいことが理由の1つです。
しかし、このようなコストカットによる収益改善には限界があります。またコストカットは現場の負担が増えることが多く、業務における士気にも影響を与えます。さらに減収増益では、外部からの企業評価もあまり良くないままです。
このためITを利用する上では、増収を目指すことも重要です。DXは「攻めのIT」として、売上を向上するための道具として使うことができます。
ビジネスモデルを変える必要がなければ、DXは不要か?
伝統を守り続ける企業では、将来もビジネスモデルを変える必要がないと考える場合もあるでしょう。しかしこのような企業でも、DXは必要です。ここでは3つの視点から、その必要性を考えてみます。
より稼げる顧客を取り逃している可能性がある
現状で十分な収益をあげているからといって、それが最善の策とは限りません。漫然と現状維持を続けることによって、企業が飛躍的に発展するチャンスを逃す場合もあります。
たとえばビッグデータの解析により、現状よりも高付加価値の商品や、高い収益を見込める商品にニーズがあると判明した場合はどうでしょうか。企業としてはそのニーズにこたえ、業績を伸ばすことが良い選択となります。\
「2025年の崖」への対策は十分か?
たとえビジネスモデルを変える必要がなくても、ITシステムは定期的な更新が必要です。この点については、ITサービス事業者にお任せというところも多いのではないでしょうか。ところが今、その常識が変わりつつあります。
経済産業省は既存のITサービスのサポート終了やITエンジニアの引退などにより、2025年以降は最大で年間12兆円の経済損失になる可能性があるとしています。これは「2025年の崖」と呼ばれ、ITシステムの更新がうまくいかなかったことを理由として競争に敗れる企業も出ることを意味します。
一方でDXを実現するシステム更新に踏み切っても、これまでにようにITサービス事業者任せとはいきません。更新後のシステムでは海外クラウド事業者のサービスを利用する場合もあり、業務をシステムに合わせることを迫られる場合もあります。
従ってDXを実現するためには、発注者側が求める仕様や機能を理解した上で、利用するサービスを主体的に選定することが必要です。
事業環境の変化にキャッチアップすることが重要
どれだけ伝統を重んじる業界、および企業であっても、激変する社会の影響を受けずに事業を進めることはできません。事業を継続し業績を拡大するためには変化を拒むことではなく、事業環境の変化にキャッチアップすることが重要です。
たとえば同じ製品でも、その注文方法は郵便からFAX、さらに電子メールやWebへと変化してきました。今ではSNSを活用する企業も出てきています。今後起こり得る変化に備えるためにも、DXの活用は有効です。
DXを実現するために重要なこと
DXを実現するためには、いくつかの重要なポイントがあります。本記事の最後では主な点を3つ取り上げ、それぞれについて解説を行います。
企業運営における課題を正しく認識し、明確にすること
DXは、企業運営における課題を解決するために使われます。このため、やみくもに手法だけ導入しても収益の改善にはつながりません。システムの導入を考える前に現状を正しく認識した上で、経営課題を明確にすることが求められます。
利用する側としてシステム導入に積極的、かつ責任をもって関わること
システムを発注する側としてありがちな姿勢の1つに、「私たちはシステムのことはわからないから、御社にお任せします」ということがあげられます。しかし変化の激しい時代において、このような姿勢は適切とはいえません。
そもそもシステムの利用により業績に影響が及ぶのは、発注した企業自身です。このため、発注側企業は導入にあたりリーダーシップを取ることが求められますから、自社で使うシステムの仕様をきちんと理解する必要があります。
現場の理解も求められる
DXを導入するには、利用する現場の理解も求められます。現場としては慣れたシステムから離れ、新しいシステムの使い方に習熟することを強いられることになります。業務命令とはいえ、理不尽と思う従業員もいるかもしれません。このため導入の際には、できるだけ現場にもメリットが出るように工夫することが求められます。
まとめ
いかがでしたでしょうか?DXの導入においてはビジネスモデルの変革にあること、また仕様の提示やサービスの選定は発注者側がリーダーシップを取る必要があるといえます。DXを有効に活用するにはシステム発注の前に、事業や業務の見直しが欠かせません。
もし迷うようであれば、ITサービス事業者やITコンサルタントなどの専門家にアドバイスを受けることがよい方法です。適切なアドバイスを受けることで、仕様を早くかつ適切に確定できるメリットも期待できます。
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