建築業

工事間接費(現場共通費)配賦のポイント

建設業会計について、今回は工事間接費(現場共通費)配賦のポイントについて整理していきます。

工事間接費(現場共通費)とは

費目別原価計算では、各工事別の原価を各企業が管理・分析しやすい多元的な要素に区分できるように費目を設定することの重要性を述べてきました。

実際工事原価計算の最小限の目的は、適正な工事別原価を算定することにあります。個別原価計算(工事原価計算)の最も重要かつ困難な計算作業が、工事に直接賦課できない原価の計算、すなわち間接費の配賦です。

間接費を配賦するためには、費目がどんな形で設定されていたとしても、まず直接費と間接費に区分されるように設定する必要があります。間接費の配賦計算は複雑になるため、できる限り直接費部分を多くし、間接費部分を少なくする努力が必要です。

建設業では、各工事に共通して発生する原価を工事間接費と呼び、各工事は個々の工事現場を保有しているので、現場共通費といわれることもあります。

工事間接費(現場共通費)には、次のようなものがあります。

  1. 材料副費のうち、各材料の取得原価に算入しなかったもの
  2. 技術や現場管理に関わる従業員の給料手当等
  3. 仮設材料、建設機械、車両などの長期保有物品の損耗分およびその稼働に関連する支出
  4. 複数の工事を管理する現場事務所の諸経費

工事間接費の配賦

工事間接費は発生した時点で個々の費目で把握され、仕訳伝票によって工事間接費あるいは現場共通費勘定に集計されます。ただし、すべての工事原価を未成工事支出金に集計し、その内容を補助簿としての工事台帳で把握していく方式では、工事間接費の明細は工事台帳へ記載されます。

工事間接費の工事別配賦計算は原則として次の計算式で行われます。
工事間接費の工事別配賦計算

配賦率 = 一定期間の工事間接費実際額あるいは予定額 ÷ 一定期間の配賦基準数値の総額
各工事への配賦額 = 各工事の配賦基準数値の実際値 × 配賦率

配賦計算については、計算の目的や企業規模によっていくつか組み合わせがありますが、まとめると以下のようになります。

1. 配賦基準の設定方法によって

  • 一括配賦法
    すべての工事間接費をまとめて1つの配賦基準で配賦してしまう方法
  • グループ別配賦法
    類似性の高い原価要素群をグループ化し、そのグループ別の配賦基準で配賦する方法
  • 費目別配賦法
    費目ごとに個別の配賦基準を設定し、個別に配賦する方法

どの方法を選択するかは、工事間接費が工事原価中にどの程度の割合を占めているかによって判断します。小規模企業では一括配賦法で十分な場合もありますが、企業規模が大きくなるほど現場管理を中心とする工事間接費も大きくなるため、いくつかの費目群にグループ化された別個の配賦基準が必要になります。

2. 配賦工事間接費の実際・予定の相違によって

  • 実際配賦法
    配賦率算定式の分子に工事間接費実際発生額を置き、配賦率を算定し、配賦を行う方法
  • 予定配賦法
    配賦率算定式の分子に一定期間(通常は1年間)について予定される工事間接費発生額を置き、それに基づいた配賦率によって配賦を行う方法
  • 正常配賦法
    配賦率の算定方法は、ほぼ予定配賦方法とかわらないが、配賦の理念として、間接費配賦の正常性(操業度変動による配賦額のバラツキ排除)を強調した方法

建設業では、工事番号別の原価集計を行うため、ある工事の作業が終了すれば、即座に工事番号別の集計を実施したいところです。しかし、実際配賦法では、期間での実際工事間接費が確定しないと配賦計算ができず実務的でないため、予定配賦あるいは正常配賦が採用されます。予定配賦、正常配賦によって、間接費配賦計算を完了し、工事番号別の原価をいち早く求めることが可能になります。

3. 配賦基準数値の相違によって

  1. 価格法
    1. 直接材料費法
    2. 直接賃金法
    3. 直接原価法
  2. 時間法
    1. 直接作業時間法
    2. 機械運転時間法
    3. 車両運転時間法
  3. 数量法
    材料や製品の個数、重量、長さなどの数量を基準とする方法
  4. 売価法

上記いずれの配賦基準数値を選択すべきかは、費目の特性、企業の規模や特性、計算の重要性などを勘案して判断します。いずれにしても工事間接費の発生となんらかの因果関係のある配賦基準を選択すべきです。たとえば、現場事務所の間接費について、各工事で作業した直接作業時間に比例する関係がみられたら、配賦基準として直接作業時間を配賦基準として採用します。

一方で、配賦基準を費目ごとに細かく複雑に設定した場合に、計算の煩雑さや実際工事に配賦された後の妥当性などが見えにくくなる場合があります。複雑にすればするほど、実務的な負担とそれを支える業務アプリケーションの作りこみの負担が大きくなります。実務的には、シンプルでわかりやすく設定し、柔軟に配賦基準を変更できることがポイントになってきます。

予定配賦・正常配賦と配賦差異

予定・正常配賦の意義

工事間接費の実際発生額を把握してから配賦計算を実施することは、計算の迅速性と配賦の正常性の観点から欠陥があることは先に述べたとおりです。予定配賦法は、主として計算の迅速性に着目した方法であり、正常配賦法は配賦の正常性を強調した手法になります。

建設業の工事間接費は、操業度の変動にほとんど影響を受けない固定費部分が多いです。例えば、建設用機械や車両も減価償却によって費用かされるため固定費ですし、現場管理要員の人件費も基本的には月給与のため固定費になります。

もし、これら原価について実際配賦法を採用すると、配賦率計算の分子部分である工事間接費実際発生額が固定額となるため、工事繁忙期に配賦額が少額となり、閑散期に多額となるという現象が起こります。

正常配賦法では、月間ではなく、1年間、場合によっては2~3年間に共通する配賦率を算定し、同一作業には、時間当たりやその他単位当たり配賦額を均一化して配賦するため、上記のような実際配賦法の欠陥を克服できます。

予定・正常配賦の方法

予定・正常配賦法では、原則として、年間あるいは会計期間での工事間接費発生額と創業水準をあらかじめ決定し、次の計算によって予定・正常配賦率を求めておく必要があります。

予定あるいは正常配賦率 一定期間の工事間接費予定額(予算額) ÷ 同期間の基準操業度

配賦差異の処理

工事間接費を予定あるいは正常配賦すると、実際発生額との間に差異が生じます。配賦差異には、配賦不足と配賦超過のケースがあり、配賦不足は借方差異あるいは不利な差異、配賦超過は貸方差異あるいは有利差異と呼ばれます。

配賦差異は、通常月次では処理せず、会計年度末か四半期末での残額を一括して処理する以下の方法がります。

  1. すべて売上原価たる完成工事原価に加減する。
  2. 当期完成工事と期末未成工事原価に配分して加減する。
  3. 営業外損益とする。

間接費配賦処理のシステム構築のポイント

建設業会計システムの構築において、もっとも検討に時間がかかるのが、間接費配賦の処理です。経営企画部、経理部、情報システム部が集まって、各間接費費目の配賦基準をどのように設定するか何度も議論され配賦基準マスタが設定されます。

また実績配賦にするか予定・正常配賦にするかについても、議論が分かれるポイントです。財務会計と管理会計の数値の一致を正確に求める経理部と速報値をいち早くほしい現場・経営企画部とで重要視するポイントが異なり、システム化するにも大変苦労するところです。

また、間接費配賦処理のシステム構築後も現場部門からの配賦額の妥当性の問合せなどがあり、毎年配賦基準を変更することも珍しくありません。

これまでの経験から間接費配賦処理については、「シンプル化」「配賦基準変更の柔軟性」の2点に重点を置いて検討すると、システム検討のコストが膨らまずに現場部門、経理部門、経営企画部がそれぞれ使いやすいシステムが構築できます。

まとめ

いかがでしたでしょうか?間接費配賦については、建設業特有の処理で、各企業がそれぞれ管理方法を検討し、各個別工事に配賦しています。システム導入の際も検討に最も時間がかかり大変な箇所でもあります。上記で整理した内容をもとに検討を進めてみてはいかがでしょうか?

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次回予告

次回は、工事原価の部門別計算について発信していきます。

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